どんな行為が行政処分(許可取消し、改善命令等)の根拠とされたのか、公示された事例ごとに理解しておくことは、監理事業を行う際に、行政処分を受けるリスクを最小限にする有益な方法です。
1. 九州国際交流協同組合(許可取消し)
(1)許可取消し処分の端緒
監理団体が技能実習に係る不正行為を行ったことについて、入管が気付き、機構に通報したことが発端となっています。
(2)許可取消しまでの事務的流れ
今回のように、外部から機構事務所へ、法令違反等に関する情報が通報、提供された場合、機構は実地検査等を行い、その事実の有無を確認することがあります。そして、その調査によって認定された事実が、行政処分に相当すると判断した場合は、処分庁へ当該処分を要請(進達)する、というステップを踏みます。なぜなら、機構はあくまで民間の認可法人であり、行政処分を行う権限は一切持っていないからです。
そこで機構からの進達に基づいて、監理団体に関してはその処分庁である法務省・厚労省が、機構が認定した事実と、機構が妥当と考える処分内容を検討して、今回の場合は監理団体の許可取消しの決定を行ったものです。このように処分庁の決定が、機構の進達通りになることもあれば、それとは異なる処分内容になることや、行政処分無し、となることもあります。
(3)許可取消しの原因となった行為
許可取消しの原因として認定された事実(行為)とは、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした」ことです。
(4)許可取消しの法的ロジック(行政処分の法律構成)
上記の行為は、技能実習法26条4号(許可申請日前5年以内に出入国又は労働法令に関して不正又は著しく不当な行為をした者)に該当すると公示されていますから、この不正又は著しく不当な行為は、監理団体の許可申請よりも前に行われていたことになります。そうすると今度は、監理団体の許可申請の時点で、既に欠格事由を有していたことになり、同法37条1項2号に該当し、監理団体の許可取消し要件を満たします。
また処分理由には、技能実習法37条1項5号(出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき)該当の記述もありますから、この条文は、許可後において不正又は著しく不当な行為がされたことを示しています。
(5)この事例から学ぶべき点
それは、許可申請前に行った不正行為や著しい不当な行為に関して、申請時に未発覚であったため許可されても、許可後にその不正行為等が事実として確認された場合は、欠格事由非該当という申請時の許可要件を満たしていなかったことから、取消し事由になるということです。この場合、欠格事由に該当する期間の起算日は、不正または著しく不当な行為を終了した日となり、そこから5年間は、その監理団体に在籍していた役員(理事、監事等)は入管や機構の欠格者リストに掲載されますから、監理事業等に関与することは不可能となります。もちろんそれに止まらず、現在進行中の監理事業の関係者に多大の迷惑をかけてしまうことになりますので、許可申請日の5年前からのコンプライアンスマネジメントが非常に重要となります。
現在は、許可申請や認定計画の申請に、申請者本人が欠格事由非該当であることを誓約するための記入欄が、技能実習計画認定申請書(別記様式第1号)では第7面に、監理団体許可申請書(別記様式第11号)では第2面に新設されていることは、ご存じのことと思います。
2. アーバン協同組合と協同組合クリエイトヒット(改善命令)
(1)改善命令の原因となった行為
事実と異なる内容の監査報告書を外国人技能実習機構に提出するなど,適正な実習監理を行っていなかったと認められること。
(2)改善命令の法的ロジック(行政処分の法律構成)
技能実習法36条1項に規定する改善命令を行う必要があると認められたため。
(3)この事例から学ぶべき点
機構が認定した事実は、この2つの監理団体は、実習実施者の監査を実施した後に、事実と異なる内容の監査報告書を提出したことなどです。これらのことが、適正な実習監理を行っていなかったと評価されました。処分庁である法務大臣と厚労大臣が、監理団体の許可取消しという一発レッドカード(許可取消し)ではなく、イエローカード1枚(改善命令)の行政処分としたことは、改善の可能性があるとの判断をしたものと推察されます。
ただし、改善命令を受けた監理団体は、2か月程度を目途として、運営や体制を抜本的に改善するための具体的な措置を主務大臣に報告することが義務付けられることとなり、これ(技能実習法36条1項)に違反した場合は同法37条1項4号に該当することから、今度は許可取消しとなる可能性が極めて高くなります。改善命令を受けた監理団体はしばらくの間、機構からの抜き打ちの臨時検査にも対応を迫られ、ミスの許されない実習監理と報告書等の作成に、相当の労力と費用を割かざるを得ないと思います。
なお、改善命令に違反した場合においても、悪質とみなされた場合には、監理団体の役員だけではなく職員に対しても、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金(同法111条3号)に処せられることがありますので、注意が必要です。
3. 越前町漁業協同組合(改善命令)
(1)改善命令の原因となった行為
技能実習生からの相談応需体制が適切に整備されていないこと,及び,傘下の実習実施者に対する監査を適切に行っていなかったこと。
(2)改善命令の法的ロジック(行政処分の法律構成)
監理事業の適正な運営を確保するために必要があると認められることから,技能実習法36条1項に規定する改善命令を行う必要があると認められたため。
(3)この事例から学ぶべき点
改善命令を受けた監理団体の法人類型は漁業協同組合ですから、規則29条1項6号に規定されている通り、傘下の実習実施者は当該漁業協同組合の漁業を営む組合員になります。そうすると技能実習生の職種名は漁船漁業ですから海上の作業が主となり、乗船時間が多くなります。
そこで改善命令の原因として挙げられた、相談応需体制が適切に整備されていないこと,の意味は、実習生が陸上にいる時の面談等が不十分であったこと等が考えられます。帰港までの日数が長い場合には、漁業無線等を使用して、実習生から聴き取りをする等の工夫が必要です。
また、監査が不十分であるとの処分理由は、具体的には、傘下の実習実施者に監査に入った監理団体の職員が、通常の注意力をもって検査していれば発見できる法令違反等を見逃したことを意味しています。任務懈怠であるか、そもそも監査する十分なノウハウを持ち合わせていないか、そのどちらかを指摘されていると考えられます。
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以上、先月の行政処分の公示に関して若干の解説とコメントを記しました。
監理団体が許可取消し等の行政処分を受けることになれば、臨時の実地検査や聴取、最終的な聴聞等その対応に莫大な時間と労力がかかります。監理団体の立ち上げに費やした経費も貴重な時間もすべてが無駄となり、築き上げてきた実習実施者からの信用も失ってしまいます。
当事務所は、行政処分を受けた監理団体を、これまで元機構指導課の実習適正化指導員として、機構の内部から詳細かつ具体的に観察してきた経験を踏まえて、監理団体が抱える問題点を早期に発見し、具体的に指摘する力を有しています。また、監理団体の職員の皆さんには、どのように実習実施者への監査を行ったらよいのか、例えば変形労働における割増賃金の計算方法や計画齟齬の判別手法等、機構水準で、教育、研修を実施することができます。
もっとも効果的で、もっとも効率的な監理事業の進め方は、予防法務に徹することです。機構から改善指導や改善勧告を受ける前に、計画的に問題点を改善したい、監査ノウハウに関する職員研修を受けさせたい、そのようなニーズに応えるサービスを当事務所は提供致します。
月次顧問、外部監査、同行外部監査、職員研修等に関して、具体的なご要望に基づいて、個別に見積をさせて頂きます。お電話、メール、ZOOM等で、お気軽にお問合せください。